artessay



「私の心旅」

吉田佳寿

 私は自然が大好きです。よく海や山へ出かけたり、知らない国へ旅したりします。その時に出合う風景や人、食べ物、空気の状態など、全身で感じて吸収するのが好きです。
 私が制作するときに大切にしていることは、素直な心で自由に楽しむこと。心も身体も軽やかにして、描いています。少し旅するのに似ていますね。
 では、描いてみましょう。今日の気分で好きな色を選び、スタートです。ぱっと広がるブルー、ドキッとする青さです。いつか行った海を思い出します。隣にターコイズブルーを置いてみると、私の耳の中に波音が聞こえてきて、あっという間に海へ旅してしまいます。冷たい水、海からの風、さらさらの砂、記憶にある自然との対話が始まり、派手なパラソルの花、耳がぶーんとなる水の中、息を詰めて見た泳ぐ魚・・・。現実は色を選び、描いているのですが、私の頭の中は記憶にある自然を旅しています。そうして写し取った世界は理想郷の海ではなく、記憶にあるいくつものリアルな海となります。
 たまたま海の話をしましたが、雨や花、食べ物など選ぶ色によって心が旅する場所はさまざまです。過ぎ去った体験をもう一度見直し、大切なものを選んでいくことで自分の自然観が確立していき、現在と過去が重なっていくことがおもしろくってやめられないのです。そうした行為は私にとってはとても必要で、浄化してくれているようです。
 私はよく空間に大きく広げる作品をつくります。制作した小さなパーツを使って展示会場で仕上げます。ある程度のことは決めていますが、現場でラストの大制作が始まります。長い時間とパワーを使った小さな作品達、緊張と集中、時間差のない全力の世界です。そうして仕上がった作品を眺める瞬間がたまらないほどの快感なのです。見渡して、包まれて、納得して、等身大の自分を知ります。切り取り、つなげた世界は、私がいとおしくてつなぎとめておきたい日常の大切なものばかり。一つ一つは決して特別ではないのですが、たくさんになることで怖いほどのパワーとなるのです。今の私はどうだろうか?きちんと生きているのだろうか?それを確かめたいという好奇心で私の作品はできているのだと思います。
 人は仕事であったり、母であったり、その人の立つ位置で自分を振り返りながら生きていると思います。私はたまたま美術だったのです。かけ離れた世界ではなく、共感できる作品になっていると信じています。
 
吉田佳寿
 
「造形ジャーナル」 開隆堂出版
 
 

2013年9月
 

  • 初めて作品と文章が印刷物になりました。
  • とても嬉しいです。
  • 開隆堂出版のみなさま、ありがとうございます。
  • これからも頑張ります!

 
kazuブログ
 
日々のこと綴っています。
 


 
 KazuYoshida Instagram